――数えるぐらいの幸せでもそれが本当に幸せだったなら、それを思い出せる自分は幸せなのかも――
肌寒い夏の海。風に揺れる線香花火。ガキの頃から泳ぐのが得意な俺は、帰らずの森の中、ずっとずっと溺れていた。
何かに救いを求めて生きるなんてことはしたくなかった。らしいらしくないにこだわって生きるのが何よりだと思ってた。自問自答の繰り返しなんだ。「俺らしいって何だろう?」「こんなの俺らしくねぇ」って具合にね。数に限りがあるわけじゃないし、耳元で唄う子守歌でもないんだ。
ダサいぐらいに軟弱な俺は、今日も空の色とか空気の匂いばかり気にしている。強がりだけじゃ生きられないし、優しさだけじゃ自分さえ救えない。わかってるよ、そんなこと言われなくてもわかってる。
ただ気になることが一つだけあって、昨夜も同じ夢で目が覚めたんだ。夢だと気づく場面はいつも一緒で、微妙な違和感に目が覚める。その先が知りたくてまた目を閉じてみるけど、今度は口の中にたくさん石が入ってきて続きの邪魔をするんだ。ウォッカとレモンスライスで夜を明かすのはもういい加減飽きたよ。
結局“癒し”を求めていた軟弱は、気がつけばおまえを抱いていた。針金の入った縄できつく、きつく縛らなきゃ駄目なんだ。何も言わず俺を受け入れてほしい。
誰にでも好きなものと嫌いなものがあって、それは時として真逆に変わってしまうこともある。俺は狭い空間が大嫌いな閉所恐怖症だけど、これが好きに変わるなんて有り得ないね。あんこが嫌いなんじゃない、つぶあんが嫌いなんだ。行列のできるラーメン屋に少しの魅力も感じない俺は、よく漫画で警官が食ってるラーメンが食べたくってしょうがない。
ずっと自分が不利だと思ってた。思いどおりにいかないこの道程は“不幸”に向かっているとさえ疑った。川のない橋を渡り、橋のない川を泳ぐ。この曲がりくねった道は“幸せ”の後遺症なのか? なんか上手く言えないけど、本気だったよ。ほんの一瞬だけどおまえを愛せてよかった。
もっとイメージを大事に生きていたいな。何もない紙に言葉を書くより、絵を描くような人生。偽りのカッコつけだとおまえは笑うけど、輪郭ばかり気にしている世の中に寂しささえ覚える日もあった。結局は最初に感じたものが全てだったりするから、俺はもう二度と「あの頃は良かった」なんて言わない。そう決めたんだ。
もうすぐこの線香花火も終わってしまう。オレンジ色の黒い火の玉は静かにゆっくりと落ちてゆく。
もしこの先別々を選んだとしても、たとえば今日のこと、俺は忘れない。
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